はじまりの恋

邂逅08

 いや、しかし――もしそうだとしても、まだ彼がどういう人間かもわからないのに、それはいささか早計だ。 今回の件に関しては多分、ほだされるとは少し違うような気がする。「懐かしい、って思うんだ」「気になる相手が懐かしいって感じんの?」 ポツリと…

邂逅07

 彼とはほんの少し話をしただけ。だからそんな風に思うには違和感がある。けれど彼のことを思うと、なぜか懐かしい気持ちになる。「なんで、だ?」 不可解な感情に振り回されるような感覚。ここしばらく感情に大きな波がなかったので、余計にもどかしい。そ…

邂逅06

 思わずじっと見つめてしまったが、彼はいまだ視線の先で歯噛みしている男を見下ろしていた。「あんまりしつこいと警察、呼ぶぞ。この辺りは巡回あるの知ってるよな」「……だからなんだ!」 彼の言葉にギクリと肩を跳ね上げたが、男は虚勢を張るように声を…

邂逅05

 僕に気を使ってゆっくりと歩く渉さんの後ろをついて行けば、先ほどまで幾度となく彼がこんなところ――と言っていた意味がわかった。 ここは普通の居酒屋が軒を連ねる繁華街とは、少々様子が違う。行き交う人たちは普段あまり見慣れない雰囲気や組み合わせ…

邂逅04

 慌てて彼らが歩いて行ったほうへ走るが、視線を巡らせてもやはりその姿は見つからない。「どうしようか」 おそらくこれは結構高価なZippoのはずだ。昔、大学の友人にコレクターがいたので、なんとなく見たことがある。交番に届けるか――いや、交番に…

邂逅03

 微かに残る記憶を手繰り寄せて、彼を思い出す。写真に写る二年前の藤堂と僕が出会ったのは多分、寒い――雪が降る頃。 あの日は白い雪空が広がっていた。その時、彼に出会ったのは本当に偶然だった。 年明けの雪が溶け始め、ほんの少し寒さが和らいだ日が…

邂逅02

 微かに残る記憶を手繰り寄せて、彼を思い出す。写真に写る二年前の藤堂と僕が出会ったのは多分、寒い――雪が降る頃。 あの日は白い雪空が広がっていた。その時、彼に出会ったのは本当に偶然だった。 年明けの雪が溶け始め、ほんの少し寒さが和らいだ日が…

邂逅02

 昔から僕は両親にも姉たちにも怒られたことがほとんどない。いつだって仕方ないねと笑って頭を撫でられる。それを不満に思ったことは一度もないが、自分の甘さを実感してしまう。「いい兄でいるのもなかなか大変だよ」「そうか、でも頼られるのはいいと思う…

邂逅01

 窓から見える夕焼け空の景色の中に、グラウンドで走り回る運動部の生徒たちや、下校する生徒たちの姿が見えた。 久しぶりにやってきたこの部室の窓からは、相変わらず色んな景色が見える。机上に散らばった写真を片付けながら、ふと長いこと見つめていた窓…

Feeling04

 現に、いつも峰岸のことを邪険に扱って怒ってはいるけれど、一度も突き放すようなことはしなかった。険悪に見えても藤堂は嫌ってはいないんだと思う。どこかで仕方ないなと思っているのかもしれない。「い、いきなり、変に冷静な分析しないでください」 じ…