はじまりの恋

休息09

 足早に去って行った彼の後ろ姿が見えなくなると、見計らったように大きなため息が聞こえてきた。そのため息の主をゆっくりと振り返れば、その主は目を細め指先で俺を呼び寄せる。そしてその仕草に俺の中では不安とか焦燥とかではなく、ついに来たかという諦…

休息08

 藤堂の傍へ行くが、なにか考え事でもしているのか僕の気配に気づいていないようだった。こちらを見ながらにやりと笑う明良。そしてそれに比例するように藤堂はどこか落ち着かない様子だ。「こういうのが鈍いやつでよかったなぁ」 俯いたまま一向に顔を上げ…

休息07

 藤堂と明良を同じ部屋に二人だけなんてとんでもない。この雑食男と一緒になんて絶対にしたくない。友人の大事な人に手を出すほどひどい奴だとは思わないけど、二人にするのはなんとなく色んな意味で嫌な予感がするのだ。しかしそんな僕の反応に明良は後ろで…

休息06

 おかしい。 三十数年の人生で男の裸は腐るほど見てきたはずなのに、以前も同じようなことがあったが、なぜだか藤堂には激しく羞恥を感じてしまう。このリアクションはやっぱりおかしい気がする。なんでこんなに動揺してるんだ。意識し過ぎているんだろうか…

休息05

 強くなる雨足。 突然走り出した僕に、背後から戸惑いの気配を感じた。しかしそれには応えず、僕は藤堂の腕を掴んだまま裏門に当たる出入り口へと急いだ。「佐樹さん?」「話はあと」 ほんのわずか引かれた手を振り返るが、それでもなおスピードは緩めない…

休息04

 急に子連れになってしまった俺と彼のあいだで、彼女はまったく遠慮もなく好き放題にはしゃいでくれる。早く彼女の家族を見つけないと、隣の彼が可愛くて俺のほうがどうにかなってしまいそうだ。「なっちゃん、きりんさんがしゅきなの」「へぇ」 あちらこち…

休息03

 園内は長く乗り物に揺られただけのことはある。郊外ということもあって周りは見渡す限り緑の山。木々が新緑を芽吹いて清々しいほどだ。 三分の一が公園のようなスペースと遊歩道。動物たちも多目的スペースと同様、広々として悠々自適な様子が見ていてわか…

休息02

 二人で暢気なやり取りをしていると、いつの間にか電車はトンネルに差しかかる。さほど長くない真っ暗なその中を過ぎれば、途端に外の景色はその様子を変えた。マンションやらビルやらが立ち並ぶ賑やかな風景とは一転、背の低い昔ながらの家や田畑が一帯に広…

休息01

 お互い意外と晴れ男なのかもしれない。開いたカーテンの向こうに見えた青空に、僕は目を細めた。昨日の天気予報では今日明日は雨で、かなり心配していたのだが、いまは雲一つない綺麗な空だ。 前に出かけた時もこんなにいい天気だったなと、ふいに思い出し…

想い08

 放課後になってから仕上がって来たパンフレットや、招待状の発送チェックを手伝っていたら、すっかり時間が遅くなってしまった。「思ったより時間がかかったな」 気づけば校舎内は薄暗く、残っている生徒たちも少ないのか、運動部が使用しているグラウンド…