はじまりの恋

疑惑22

 走り去った制服の犯人は混雑した人波に紛れて行方がわからなくなったようだ。あの場にしばらく立ち尽くしていた様子といい、やはりうちの学校の生徒だったのだろうかという疑念が浮かぶ。 けれどなんのためにあんなことをしたのだろう。ここ最近を思い出し…

疑惑21

 小さな脳みそで僕が尽きないことを悩んでいるうちにも、時間は過ぎていくもので、文化祭の一般公開日はやってきた。 毎年人入りの多いイベントだが、今年は輪をかけて来客数が多いように感じられた。生徒たちの前宣伝の賜物だろうか。賞金がかかっているか…

疑惑20

 目の前にいる相手を信じていたいと僕は思う。でもだからといって人からの助言をまるきり無視することもできない。そんな人と人のあいだで頭を悩ませたことはこれまでも何度もあった。 今回もまさにそんな状況なのだが、それをお前の長所であり短所だな、と…

疑惑19

 基本的に間宮は大人しい。もうちょっとこう押しが強くてもいいくらいだと思うが、いつも困ったように笑い自分の発言をあまりしない。だからほかの先生たちはそんな間宮にあれやこれやと用事を押しつけてしまうのだ。 けれどそのことで愚痴をこぼすかと思い…

疑惑18

 僕の危機管理能力はいつまでたっても甘いと評価を受ける。しかしそれのどれもが予想外過ぎて僕は本当にわからないのだ。 だから目の前でにこにこと笑みを浮かべながら肉を頬張っている、そんな間宮のどこに気をつけたらいいのかがわからない。間宮が学校に…

疑惑17

 なぜこんなにも峰岸と鳥羽の笑みは恐ろしさを感じるのだろう。考えてることが大抵予想を超えていくものばかりだからだろうか。二人の視線に肩をすくめたら、野上がぎゅうぎゅうと僕を強く抱きしめた。「で、なにがあったんだ?」「うう、前期であまった経費…

疑惑16

 藤堂に隠しごとをする必要がなくなってだいぶ気持ちが落ち着いた。あのあとも写真のほうは相変わらず届いていたが、思い悩むことは少なくなったように思う。 藤堂も母親の動向を以前よりも注意深く見てくれるようになり、その安心感からかもしれない。とは…

疑惑15

 何度も何度も手首に口づけられて、くすぐったいその感触に肩をすくめたら、藤堂の唇が弧を描きゆっくりと距離を縮め僕の唇に触れた。それは優しく触れ合うだけの口づけだったけれど、何度もついばまれていくうちに頬がじわりと熱を持ち始める。「佐樹さんに…

疑惑14

 立て続けに起こった事故から時間が過ぎ、一ヶ月ほど経った。その間も相変わらず小包は不定期に届いている。いったい誰がなんのためにそれを送りつけているのかはいまだ不明だ。 藤堂の写真は入っていたりいなかったり、でも確実にわかったのは写真がどんど…

疑惑13

 それから間宮の紹介してくれた病院で診察を受けたが、手首は幸いなことにひびなどは入っていないようで、どうやら捻挫らしい。 身体のほうも痛みの割に大きな傷になどにはなっておらず、打撲程度で済んだ。しかしどちらも腫れが引くまではしばらく痛みがあ…