はじまりの恋

疑惑12

 放課後になってから間宮と二人で駅前にある携帯ショップへと向かった。長らく故障することもなく同じ携帯電話を使っていたので、ショップには随分と久しぶりにやって来た。 店頭に並んでいる機種は大きな画面と薄さが売りであろう最新型ばかりで、折りたた…

疑惑11

 二人だけしかいなかった空間が、ふいに現実に返ることでその場所がどこなのかを改めて思い知る。朝のひと気のない学校だけれど、ここはいつ人がやってくるともしれない場所だ。 最近は傍にいることが多くて、その制約を忘れてしまいそうになっていた。前は…

疑惑10

 電車に乗る頃には落ち着きを取り戻したつもりだったけれど、僕は大事なことを忘れていた。そのことに気づいたのは一夜明け、学校に出勤してからだった。いつものように職員室に顔を出してから準備室に向かい、渡り廊下にたどり着いたところで僕は首を傾げた…

疑惑09

 ホームに響いたアナウンスにふいに顔を持ち上げた瞬間だった。まわりで大きなざわめきが広がり、なにごとかと首をめぐらそうとした途端に、背中を強い力で押された。それに気づいて足を踏ん張ろうと思ったけれど、気の抜けていた身体はとっさの動きには対応…

疑惑08

 言葉では推し量ることのできない感情。渉さんの中にある瀬名くんへの感情は、まだ名前がない。好き、でも嫌いでも、愛してるでもないのだろう。そしてそれは色んな可能性を秘めている。 好転するか暗転するか、いまはまだそれさえも見えない。それでも戸塚…

疑惑07

 あれから休憩が終わったと告げに来た峰岸が倉庫の扉をノックした。迷うことのない足取りでまっすぐたどり着いた峰岸に驚いたが、どうやら撮影前に倉庫と楽屋の扉が隣り合わせだから間違わないようにと、スタイリストの宮原くんに言われていたらしい。 けれ…

疑惑06

 渉さんが歩いていった先には喫煙室があるらしく、長い撮影の合間にもし煙草を吸うならと、スタッフの人が場所を教えてくれた。けれど僕は生憎と喫煙者ではないので、気持ちだけ受け取って聞き流していた。 いまどきは禁煙禁煙と言われるが、やはり根を詰め…

疑惑05

 好きとか愛してるっていうのは、柔らかくて甘いものを連想するけれど。きっと優しいだけじゃない。現に相愛同士で恋愛していても、すれ違いや傷つけ合いをしたり、嫉妬して喧嘩して気持ちをぶつけたりすることだってある。 それを踏まえてもしも、万一にも…

疑惑04

 光の中へ歩いて行く渉さんの背中はなんだか頼もしく見えた。いままで仕事をしているところなんて見たことがなかったから、普段とは違う彼の姿はすごく新鮮だ。でもなんだか眩しく見えてしまうほど、遠くに行ってしまった感じもある。渉さんの世界は僕のいる…

疑惑03

 熱烈な歓迎を渉さんから受けた僕は、満面の笑みに曖昧な笑みしか返せず困っていた。それでも目の前の笑顔は変わらずにこやかで、僕がここにいることをとても喜んでくれているのを感じる。 しかしまわりの反応は大半が驚きに目を見開いている。固まったまま…