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愛をなくした大公は精霊の子に溺愛される

第33話 心の隙間を埋める

 抱きしめたリュミザの体がとても温かく、ロディアスはたまらなくなった。
 首筋に顔を埋め、さらに隙間をなくそうと腕に力を込めたら、彼はすぐに察してくれる。

「ロディー、悲しい思いをさせてすみません」

「まったくだ。どれほど……」

 触れて感じられるぬくもり、存在を実感できる。
 たったそれだけでもロディアスの涙腺を緩めさせた。リュミザの肩を濡らしてしまうと、彼は手のひらでロディアスの頬を撫でる。

「愛しいロディー、あなたは泣き顔も素敵ですね」

「茶化すな。そしてそんなに、覗き見るなよ」

「ふふっ、こんな時に不謹慎ですが、僕のために泣いてくれる、あなたが愛おしくて」

「愛おしいと思うなら、もっと実感させてくれ。あんたが帰ってきたことを」

 コツンと額と額を触れ合わせ、お互いを見つめる二人の瞳には熱が灯っている。
 もがれた片羽を取り戻せたいま、ようやく喪失感が埋められていく。

「俺はあんたがいないと、息もできない。今回の件は仕方がないが、もう自分を犠牲にする真似はしないでくれ」

「約束します。囮になるなと言われたのに、言いつけを護れなかった。もう、しません」

 舞踏会での言葉を覚えていたのか、リュミザはひどく申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「そうしてくれ」

「はい、ロディー。あなたの望むとおりに」

 ルディルを罠にはめるため、ロディアスを救うためでも、何度も大切な人を失うのはこたえる。
 ロディアスがじっと若葉色の瞳を見つめれば、リュミザはそっと唇を合わせてくれた。

 優しく触れる彼の仕草は、まるで壊れ物へ触れるかのようだ。

 何度も触れて離れるたび、ロディアスは心が満たされる気分だった。
 少しばかりの触れ合いでも、リュミザの魔力が体の隅々へと行き渡る。器を脱ぎ捨てたことで、本来の――精霊としての力を取り戻したのだろう。

「リュミザ、あんたの魔力が心地いい」

「もっとたくさんあげたいのですけど、思ったよりロディーの力が満ちていますね。魔力枯渇で大変だったと聞いたのに」

「……夢で精霊鳥に会った」

「あれは、幻ではなかったのですね。精霊鳥からの試練。僕も夢を見たんです」

「慌てた顔で走り寄ってくれたな」

 短剣を突き立て、倒れたロディアスに駆け寄ってきたのは、リュミザだ。
 必死の形相で体を抱き起こしてくれたところまで、ロディアスは記憶がある。

「僕のためにためらわないのはうれしいです。けれど――いえ、僕が同じような真似をして、あなたを苦しめたから。精霊鳥はわざと僕に同じ思いを味わわせたのでしょうね」

「あんたの首が落ちた時は、息の根が止まりそうだったぞ」

「あれが一番確実だったのですよね。執行人がよほど間抜けではない限り、一瞬で終わりますし。とはいえ……すみません」

「半精霊が精霊になる手段が、器を捨てる、か。知ってもそうとする者がいないわけだ」

 条件も限られる。精霊族の一番目の子で、魂の核が残っている状態が必須だ。
 リュミザのようにこの歳まで残っているのも稀である。それほど彼が純粋たる存在であった証拠だろう。

「もうどこへも、行ってくれるなよ」

「ええ、ずっと傍に――いたいので、僕の命をあなたに分けたいのですが」

「男女間で行う方法と同じか? いや、同じじゃないな。あんたが俺を?」

「駄目でしたか? 僕は、あなたを抱きたいのですが」

「まあ、いいか。船の上でちゃんと我慢できたんだ。お預けしていたものを取り上げるわけにはいかないな」

 おねだりする目を向けられ、ここで断るのも可哀想だ。
 ロディアスは一歩身を引き、リュミザの手を取る。そしてそのまま整えられているベッドへと近づく。

「必要なのは潤滑油くらいか?」

「あるんですか?」

「使う予定がなくても置いてあるな」

 ベッドへ乗り上がり、ロディアスは枕で隠れたベッドボードの引き出しを開ける。
 そこには装飾の施された小瓶がいくつか入っていた。主寝室のベッドには大抵このような引き出しが隠れているのだ。

「用意周到でいいですね」

「こら、少しくらい待てないのか?」

 ロディアスが小瓶を選び、取り出していると、後ろからリュミザがのし掛かってくる。
 首筋へ唇を何度も押し当てられ、そのたびちりっとした感触がした。独占欲のあとを残したのだろう。

「待てないです。自分で計画したこととは言え、ふた月近くも会えなかった」

「計画と言えば、ライック――」

「閨で別の男の名前は厳禁です。彼の話はまた明日にでも」

 気になっていたライックの名を出した途端、リュミザにベッドへ押し倒され、唇を塞がれた。
 これまでとは違う性急な口づけは、リュミザの待ち遠しさを表しているようだ。

 角度を変えながら何度も唇を触れ合わせ、合間にするりと忍び込んでくるリュミザの舌は、ロディアスのものを絡め取る。

(気持ちがいい。リュミザの魔力とは本当に相性がいいんだな)

 口づけだけでもゾクゾクとするほどよい。
 体の奥へ注がれたらどれほどの快感になるのか、考えるだけでロディアスのモノは熱を帯びた。

「リュミザ、もっと、くれ」

「可愛い、ロディー。その物欲しそうな目がたまりません」

 舌で口内を愛撫され、口先で唾液がぴちゃりと音を立てる。
 こぼれ落ちるのももったいないと、ロディアスはリュミザの顎へ伝う唾液すら舐め啜った。

「そんなに慌てないでロディー。あとで存分に注いであげますから」

「ぅんっ……」

 夜着の上からリュミザの手が滑らされ、すでに硬く立ち上がっている胸の尖りをもてあそばれる。
 思わずロディアスが声を上げれば、リュミザの指先はつまんだり撫でたりと刺激を与えてきた。

「……んぁっ、――っ」

「ロディーはここが敏感ですよね。可愛いです」

 するりと合わせ目から忍び込まれ、直に触られれば、先ほどよりもゾクッとした快感がよぎる。
 さらには身を屈め、リュミザが首筋を舐めながら、胸をいじるものだからこらえきれなくなった。

 ビクンと腰を跳ねさせたロディアスに気づき、リュミザはうっすらと笑い、なおも体中を愛撫する。

「ふっぁ……っ、リュミィ」

「可愛い、可愛いロディー、もっと啼いてください。声、抑えないで」

「やっ、――ぁあっ、リュミ、待っ……」

 胸の先を指先でこねられ、じゅっと音がするほど吸いつかれる。
 それだけでもう我慢ができず、ロディアスは欲を吐き出してしまった。

「そんなによかったですか?」

「わかっていて、聞くな。意地が悪い」

「でもまだこれからですよ?」

「……服を、脱ぎたい」

「汚れちゃいましたね」

 クスッと笑ったリュミザは、ロディアスのたどたどしい手つきを見かねたのか、シャツやズボンのボタンを外してくれる。
 起き上がるのも面倒になったロディアスが、ズボンを蹴り飛ばせば、また笑われる。

「ロディー、傷が結構、残っていますね」

「戦争で無傷はどんな強い者でも不可能だ。だが、ここにあった咎人の証しがなくなったな」

 左胸にあった紋様。精霊の咎人である証しが綺麗さっぱり消え去っている。

「右目も綺麗な海色に戻っています。すべて清算されたのかもしれませんね」

 胸元をさすっていると、リュミザはロディアスの右まぶたへ唇を落とし、ほっとしたような笑みを浮かべた。

「リュミザ、すべてが終わったら――約束どおり、旅にでも出るか」

「いいですね。気の向くまま、風の吹くまま。世界各国を見て回るのも悪くないですよ」

「そうだな」

「でもいまは二人だけの時間を堪能しましょう。将来の話はこれからできます」

「ああ」

 ずっと先の話なんて、これまで考える余裕もなかった。しかしいまは後回しにしてしまえる時間ができたのだ。
 すべてはリュミザに出会えたおかげだろう。

 ロディアスは両手を伸ばし、リュミザのシャツに手をかける。
 一つずつ外していくと、穢れ一つない真っ白な肌があらわになった。

「筋肉がついたな」

「器を捨てたので、ロディーに恋したいまの僕は、完全な男性体です」

 滑らかで綺麗な肌だけれど、体つきは立派な成人男性のものだ。元の器の時よりも、さらに成長している気がした。
 これが本来の、リュミザの姿なのだろう。

 美しさと逞しさは両立されるのだなと感心してしまうほどだ。

「見てばかりいないで、またお預けですか?」

「あまりにも完璧な体型だから、少し羨ましい――んっ」

「我慢のできない獣になりました。なので、いまは、ね?」

「――はっぁ、あっ、リュミザ」

 じっくりとリュミザの裸体を眺めていたら、我慢がならなくなったのだろう彼は、ロディアスの下肢へ潜り込む。
 ゆるりと再び勃ちあがっていたモノを手で握り込まれれば、ひとたまりもない。

「僕もそろそろ限界なんです。早くあなたの中へ入りたい」

 枕元に転がった小瓶の蓋を口で引き開けると、リュミザは中身をロディアスの下腹へとこぼす。
 トロリとした液体はそのまま滑り落ち、ロディアスの秘所を濡らした。

「小さな場所ですから、傷つけないように気をつけます」

 潤滑油をすくった指が少しずつ奥へと侵入するたび、ぐちゅりと水音が鳴った。

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