抱きしめたリュミザの体がとても温かく、ロディアスはたまらなくなった。
首筋に顔を埋め、さらに隙間をなくそうと腕に力を込めたら、彼はすぐに察してくれる。
「ロディー、悲しい思いをさせてすみません」
「まったくだ。どれほど……」
触れて感じられるぬくもり、存在を実感できる。
たったそれだけでもロディアスの涙腺を緩めさせた。リュミザの肩を濡らしてしまうと、彼は手のひらでロディアスの頬を撫でる。
「愛しいロディー、あなたは泣き顔も素敵ですね」
「茶化すな。そしてそんなに、覗き見るなよ」
「ふふっ、こんな時に不謹慎ですが、僕のために泣いてくれる、あなたが愛おしくて」
「愛おしいと思うなら、もっと実感させてくれ。あんたが帰ってきたことを」
コツンと額と額を触れ合わせ、お互いを見つめる二人の瞳には熱が灯っている。
もがれた片羽を取り戻せたいま、ようやく喪失感が埋められていく。
「俺はあんたがいないと、息もできない。今回の件は仕方がないが、もう自分を犠牲にする真似はしないでくれ」
「約束します。囮になるなと言われたのに、言いつけを護れなかった。もう、しません」
舞踏会での言葉を覚えていたのか、リュミザはひどく申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そうしてくれ」
「はい、ロディー。あなたの望むとおりに」
ルディルを罠にはめるため、ロディアスを救うためでも、何度も大切な人を失うのは堪える。
ロディアスがじっと若葉色の瞳を見つめれば、リュミザはそっと唇を合わせてくれた。
優しく触れる彼の仕草は、まるで壊れ物へ触れるかのようだ。
何度も触れて離れるたび、ロディアスは心が満たされる気分だった。
少しばかりの触れ合いでも、リュミザの魔力が体の隅々へと行き渡る。器を脱ぎ捨てたことで、本来の――精霊としての力を取り戻したのだろう。
「リュミザ、あんたの魔力が心地いい」
「もっとたくさんあげたいのですけど、思ったよりロディーの力が満ちていますね。魔力枯渇で大変だったと聞いたのに」
「……夢で精霊鳥に会った」
「あれは、幻ではなかったのですね。精霊鳥からの試練。僕も夢を見たんです」
「慌てた顔で走り寄ってくれたな」
短剣を突き立て、倒れたロディアスに駆け寄ってきたのは、リュミザだ。
必死の形相で体を抱き起こしてくれたところまで、ロディアスは記憶がある。
「僕のためにためらわないのはうれしいです。けれど――いえ、僕が同じような真似をして、あなたを苦しめたから。精霊鳥はわざと僕に同じ思いを味わわせたのでしょうね」
「あんたの首が落ちた時は、息の根が止まりそうだったぞ」
「あれが一番確実だったのですよね。執行人がよほど間抜けではない限り、一瞬で終わりますし。とはいえ……すみません」
「半精霊が精霊になる手段が、器を捨てる、か。知っても為そうとする者がいないわけだ」
条件も限られる。精霊族の一番目の子で、魂の核が残っている状態が必須だ。
リュミザのようにこの歳まで残っているのも稀である。それほど彼が純粋たる存在であった証拠だろう。
「もうどこへも、行ってくれるなよ」
「ええ、ずっと傍に――いたいので、僕の命をあなたに分けたいのですが」
「男女間で行う方法と同じか? いや、同じじゃないな。あんたが俺を?」
「駄目でしたか? 僕は、あなたを抱きたいのですが」
「まあ、いいか。船の上でちゃんと我慢できたんだ。お預けしていたものを取り上げるわけにはいかないな」
おねだりする目を向けられ、ここで断るのも可哀想だ。
ロディアスは一歩身を引き、リュミザの手を取る。そしてそのまま整えられているベッドへと近づく。
「必要なのは潤滑油くらいか?」
「あるんですか?」
「使う予定がなくても置いてあるな」
ベッドへ乗り上がり、ロディアスは枕で隠れたベッドボードの引き出しを開ける。
そこには装飾の施された小瓶がいくつか入っていた。主寝室のベッドには大抵このような引き出しが隠れているのだ。
「用意周到でいいですね」
「こら、少しくらい待てないのか?」
ロディアスが小瓶を選び、取り出していると、後ろからリュミザがのし掛かってくる。
首筋へ唇を何度も押し当てられ、そのたびちりっとした感触がした。独占欲のあとを残したのだろう。
「待てないです。自分で計画したこととは言え、ふた月近くも会えなかった」
「計画と言えば、ライック――」
「閨で別の男の名前は厳禁です。彼の話はまた明日にでも」
気になっていたライックの名を出した途端、リュミザにベッドへ押し倒され、唇を塞がれた。
これまでとは違う性急な口づけは、リュミザの待ち遠しさを表しているようだ。
角度を変えながら何度も唇を触れ合わせ、合間にするりと忍び込んでくるリュミザの舌は、ロディアスのものを絡め取る。
(気持ちがいい。リュミザの魔力とは本当に相性がいいんだな)
口づけだけでもゾクゾクとするほどよい。
体の奥へ注がれたらどれほどの快感になるのか、考えるだけでロディアスのモノは熱を帯びた。
「リュミザ、もっと、くれ」
「可愛い、ロディー。その物欲しそうな目がたまりません」
舌で口内を愛撫され、口先で唾液がぴちゃりと音を立てる。
こぼれ落ちるのももったいないと、ロディアスはリュミザの顎へ伝う唾液すら舐め啜った。
「そんなに慌てないでロディー。あとで存分に注いであげますから」
「ぅんっ……」
夜着の上からリュミザの手が滑らされ、すでに硬く立ち上がっている胸の尖りをもてあそばれる。
思わずロディアスが声を上げれば、リュミザの指先はつまんだり撫でたりと刺激を与えてきた。
「……んぁっ、――っ」
「ロディーはここが敏感ですよね。可愛いです」
するりと合わせ目から忍び込まれ、直に触られれば、先ほどよりもゾクッとした快感がよぎる。
さらには身を屈め、リュミザが首筋を舐めながら、胸をいじるものだからこらえきれなくなった。
ビクンと腰を跳ねさせたロディアスに気づき、リュミザはうっすらと笑い、なおも体中を愛撫する。
「ふっぁ……っ、リュミィ」
「可愛い、可愛いロディー、もっと啼いてください。声、抑えないで」
「やっ、――ぁあっ、リュミ、待っ……」
胸の先を指先でこねられ、じゅっと音がするほど吸いつかれる。
それだけでもう我慢ができず、ロディアスは欲を吐き出してしまった。
「そんなによかったですか?」
「わかっていて、聞くな。意地が悪い」
「でもまだこれからですよ?」
「……服を、脱ぎたい」
「汚れちゃいましたね」
クスッと笑ったリュミザは、ロディアスのたどたどしい手つきを見かねたのか、シャツやズボンのボタンを外してくれる。
起き上がるのも面倒になったロディアスが、ズボンを蹴り飛ばせば、また笑われる。
「ロディー、傷が結構、残っていますね」
「戦争で無傷はどんな強い者でも不可能だ。だが、ここにあった咎人の証しがなくなったな」
左胸にあった紋様。精霊の咎人である証しが綺麗さっぱり消え去っている。
「右目も綺麗な海色に戻っています。すべて清算されたのかもしれませんね」
胸元をさすっていると、リュミザはロディアスの右まぶたへ唇を落とし、ほっとしたような笑みを浮かべた。
「リュミザ、すべてが終わったら――約束どおり、旅にでも出るか」
「いいですね。気の向くまま、風の吹くまま。世界各国を見て回るのも悪くないですよ」
「そうだな」
「でもいまは二人だけの時間を堪能しましょう。将来の話はこれからできます」
「ああ」
ずっと先の話なんて、これまで考える余裕もなかった。しかしいまは後回しにしてしまえる時間ができたのだ。
すべてはリュミザに出会えたおかげだろう。
ロディアスは両手を伸ばし、リュミザのシャツに手をかける。
一つずつ外していくと、穢れ一つない真っ白な肌があらわになった。
「筋肉がついたな」
「器を捨てたので、ロディーに恋したいまの僕は、完全な男性体です」
滑らかで綺麗な肌だけれど、体つきは立派な成人男性のものだ。元の器の時よりも、さらに成長している気がした。
これが本来の、リュミザの姿なのだろう。
美しさと逞しさは両立されるのだなと感心してしまうほどだ。
「見てばかりいないで、またお預けですか?」
「あまりにも完璧な体型だから、少し羨ましい――んっ」
「我慢のできない獣になりました。なので、いまは、ね?」
「――はっぁ、あっ、リュミザ」
じっくりとリュミザの裸体を眺めていたら、我慢がならなくなったのだろう彼は、ロディアスの下肢へ潜り込む。
ゆるりと再び勃ちあがっていたモノを手で握り込まれれば、ひとたまりもない。
「僕もそろそろ限界なんです。早くあなたの中へ入りたい」
枕元に転がった小瓶の蓋を口で引き開けると、リュミザは中身をロディアスの下腹へとこぼす。
トロリとした液体はそのまま滑り落ち、ロディアスの秘所を濡らした。
「小さな場所ですから、傷つけないように気をつけます」
潤滑油をすくった指が少しずつ奥へと侵入するたび、ぐちゅりと水音が鳴った。
読み込み中...