16.あの頃の自分※
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 風呂場に光喜を残して小津が先に出ると、静かな空間に鈴虫の鳴き声が響いていた。こんなに静まり返っている中で大丈夫だろうかとふと考える。階段を上がるとまだ妹の部屋から音楽が聞こえていた。
 部屋の時計を見れば日付を少し超えたところだ。しんとした空気が落ち着かなくなって、小津はオーディオデッキに手を伸ばしてラジオを付けた。ボリュームは少し落として微かに話し声や音楽が流れてくるくらい。

 たったそれだけでもそわそわする気持ちがなだめすかされるような気分になる。そういえばとそのまま本棚に足を向けて指先で目的のものを探し、本と本の隙間に挟まった高校時代の卒業アルバムを引っ張り出す。
 なにげなくページをめくるとあいだにはがきが挿してある。少しばかり古ぼけたそれは同窓会のお知らせだ。

「一度も行ったことなかったな」

 学生時代に友達がいなかったわけではない。それなりに仲良くやっていた友人たちもいた。けれどいつの間にか縁遠くなって、いまではほとんど居場所も連絡先も知らない。歳を重ねるほどに恋人は? 結婚は? という話題になってくる。答えられなくて曖昧に笑う自分を想像して、そういう煩わしいことから逃げたかったのだ。

 いまはっきりと小津が友人だと言える相手は光喜の幼馴染みの恋人、鶴橋くらいだろう。大学に通っていた頃に旅行先で知り合った。恋人が荷物を紛失して大騒ぎになった時に声をかけてくれたのがきっかけだ。あの生真面目で落ち着いた雰囲気にほっとしたことをいまでも思い出す。
 けれど縁が続いて友人としての付き合いを始めてみたら、見かけによらず行動力がありイエスやノーを迷うことがなかった。のんびりとした自分とは真逆であることを知り、そういうところも好ましいと思った。

「小津さーん、お待たせ。あ、卒業アルバム?」

 部屋の扉が開くのと共に、ふっと空気が揺れて柔らかな香りが鼻先をかすめる。バスタオルで髪を拭きながら近づいてきた光喜から香ってくる匂いだ。同じもの使っているはずなのに新鮮な香りがすることがいつも不思議でならないと小津は思う。
 それは絡みつくような甘さではなく、すっきりとした優しい香り。近づくほどに香ってくるその匂いを嗅ぐと、心を引き寄せられる。

「小津さんってわりと昔から背が高くて体格がいいんだね」

「そうだね、子供の頃は並ぶ順番は一番後ろが多かったよ。小学生の高学年になるとランドセルが小さすぎてショルダーバッグで登校させてもらってた」

「へぇ、そうなんだ。俺なんかは中学上がるまでずっと前のほうがほとんどでさ、平均的な女の子より小さかったんだよね」

「それはいまじゃ想像つかないね」

「でしょ、一年で二十センチくらい伸びたよ。そのあともぐんぐん」

「じゃあ、今度は光喜くんのアルバム見せて」

「えー、んー、じゃあ帰った時に持ってくる」

 少し考え込むような表情を浮かべたけれど、すぐに顔を持ち上げて光喜はふわっとした笑みを見せる。その笑顔に引き寄せられるまま唇を寄せれば、瞬いた瞳がゆっくりと閉じられた。ついばむように触れて、柔らかな唇がしっとりとする頃に離れる。
 するとまぶたを持ち上げた彼は縋るような目をした。触れることが好きな光喜はキスをすることも好きで、いつもこうやって見つめてくる。少し意地悪したくなった小津が黙って見つめ返せば、焦れたように唇に噛みついてきた。

 やんわりと囓られた下唇。さらにもっと奥へと忍び込もうとする赤い舌がちらつく。閉じたアルバムを適当に本棚の隙間に突っ込んで、小津は寄り添う身体を強く引き寄せた。決して細くはない男性らしい身体付き。けれどいままで抱きしめた誰とも比べられないほど、光喜という存在は小津の欲を煽る。
 息を継ぐのも忘れそうなほど唇を合わせると、小さく喘ぎながらそれに応えようとする。しがみついてくる手が震えてTシャツにしわを作り、ぎゅっと握りしめられた。薄く開かれた場所へ滑り込ませたもので舌をくすぐれば、肩がビクンと跳ねる。
 何度キスを交わしても初めてのような反応を示す、彼の初々しさを熱情で溶かしたくなった。

「あっ、んっ……駄目、待って小津さん」

「どうしたの? 今日はすごく感度がいいね」

「んんっ、や、まだ触んないで」

 キスだけで緩く立ち上がり始めた光喜の熱を撫で上げると、逃げるように腰を引かれる。けれどそれを追いかけて小津はスウェット越しにやわやわと揉みしだく。するとあっという間に手の中で形をはっきりとさせる。

「もしかして光喜くん、すぐにイキそう?」

 頬を赤く染めて俯く彼は膝を震わせながら唇を噛みしめていた。それをのぞき込むと涙目で見つめ返される。艶のある色香と相反するいとけないような眼差しにまた小津は気持ちが振り切れそうになった。
 少し乱雑にスウェット手をかけて引き下ろすと、シミを作り始めているボクサーパンツの中へ手を滑り込ませる。ビクビクと震える熱はいまにも弾けてしまいそうで、微かに漏れ聞こえる甘い声を誘うように刺激を与えた。

「やだ、駄目、出ちゃう」

「せっかく着替えたのに汚れちゃうね」

「小津、さん、意地悪だ」

 ぴったりと彼の小さな尻を包むものを引っ張り下ろせば、立ち上がったものがぶるんと飛び出す。先走りをこぼし始めたそれを手のひらで包みながら今度は優しく撫でる。肩口に顔を埋める光喜はこらえ切れていない声を必死で飲み込もうとするが、攻め立てればすぐに小さな声が漏れた。
 それを塞ぐようにキスをして、高みへ押し上げるように愛撫すれば、涙をこぼしながら欲を吐き出した。

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