78.もう離さない※

 何度もキスを重ねたあとは光喜のおねだりで一緒に風呂に入った。ギリギリまで恥ずかしがって抵抗していた小津だったが、ふらつく光喜を見て放っておけなくなったようだ。しかし一緒に湯船に浸かり、情事の痕をありありと残す光喜の身体を見てのぼせていた。
 しまいには熱を高ぶらせて、光喜に浴室の壁に追い詰められる。

「光喜くん、無理しなくていいよ」

「んっ、おっきいけど、慣れればなんとかいけそう。ごめんね、下手で」

「そ、そんなことないよ。光喜くんが、してくれてると思うだけで、正直死にそう」

「ぅんっ、はあ、死んじゃ駄目だよ。これから先も一緒にいてくれるんでしょ?」

「う、うん。……あ、光喜くん離して、もういいよ」

「やら、イッて、いいよ」

 ビクビクと筋を立てて反り返る小津の熱は明るい場所で見るとかなり凶器のようだ。けれどそれを光喜は愛おしそうに口をいっぱいにしてしゃぶる。舌先で鈴口を突いてじゅぶりと吸い上げると震えた熱から欲が吐き出された。
 喉の奥に溜まったそれを光喜が飲み込むと、小津は慌てたように先ほどまで自分のものを咥えていた口を開かせる。

「もう全部飲んじゃったよ。さすがに小津さんも昨日たくさん出したから薄いね」

 舌を出して口の中を見せると光喜は目を細める。いたずらっ子のようなその瞳に小津は目の前の肩に両手を置いて、ため息を吐きながらうな垂れた。その反応に光喜は小さく首を傾げる。

「もしかしていままで飲まれたことないの?」

「あ、いや、その、そもそも僕のを、口でしてくれるような子は、いなかったし」

「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、これからは俺がいっぱいしてあげるね」

「えっ! あー、いや、う、うん。でも無理しなくていいからね」

「大丈夫、口も割と大きいし、身体も丈夫だから、小津さんも遠慮しなくていいよ」

 にんまりと笑った光喜を小津は眩しそうに目を細めて見つめる。伸びてきた手が髪を梳きながら頭を撫でて、やんわりと額に口づけを落とされた。そのくすぐったい感触に光喜が目を瞬かせれば、滑り落ちた唇は頬に触れ口先に触れる。

「光喜くん、好きだよ。これから先、ずっと君を大切にするから」

「うん、ありがと。俺、諦めなくて良かった」

「ごめんね。光喜くんの気持ちに気づいてたのに、手を離すような真似をして」

「ううん、小津さんが悪いんじゃないよ。臆病な俺が悪かったんだ。普通あんなに無視されたら、諦めたくもなるでしょ」

「本当は少し前から気づいてはいたんだ。光喜くんの目が、まっすぐに僕を見るようになってたこと。でもわかってても信じ切れなくて」

「……そうなんだ。俺たちはやっぱり似たもの同士だね」

 目に見えてわかるほどの明らかな好意、お互いにそれを感じていながら足を踏み出せないでいた。好きだからこそ怖くて紡げなかった愛の告白。それでも遠回りしてようやくたどり着いた。けれどそれは二人だけの力ではない。

「今度勝利のところに菓子折り持って謝りに行かなきゃね」

「うん、近いうちに行こう。いくら頭が混乱してたとは言え、勝利くんに電話しちゃうなんて僕はどうかしてた」

「小津さんはあわてんぼうだね」

「逃げてごめんね。もうなにがあっても光喜くんから離れないから」

「うん、その言葉だけでいい。もう謝んなくていいよ。ほら、座って、身体冷えちゃった。お腹も空いたしお風呂上がったら朝ご飯を食べに行こう」

 しがみつくみたいに後ろから腕を回されて、きつく抱きしめられて光喜の胸は甘く高鳴る。それだけのことがひどく嬉しくて、俯くと瞳からこぼれたしずくが湯に波紋を作った。このぬくもりがずっと欲しかった。自分のものにしたかった。
 もうなにがあっても離してやるものか、そんな自分の気持ちに今度は笑えてしまう。小さく笑い声を上げた光喜に、小津は優しく頬を寄せた。