22.通じ合うことのできない価値観

 これまでも付き合ってきた子たちは気軽に親や姉に紹介してきた。光喜が言わなくとも家に帰れば当然のようにその話題になる。一年単位で入れ替わる彼女に瑠衣は長続きしないわね、と言うけれど特別呆れているわけでもなかった。
 両親は若いうちは色々な出逢いを経験するのはいいことだよと笑う。そしていつかこの人だって思える人が現れるからと。二人はいまの光喜と同じ歳の頃には結婚をしていた。お母さんが僕の運命の人なんだと、いつも父は自慢げだった。

 けれどこの広い世界でそんな人に出会えるのは万分の一以下だろうと、光喜はいつも笑って受け流した。最初はみんなすごく愛おしくて可愛くて大好きなのに、いつもパチンパチンとスイッチが呆気なく切り替わる。だからそんな自分に運命は巡ってこない、ずっとそう思ってきた。

「ちょっとやだ、マジ恋? どんな子よ!」

「どんなだっていいじゃん」

「よくないわよ! いままであんたから好きになった子なんていなかったじゃない」

 ソファの背に腕を乗せて身を乗り出してくる瑠衣に光喜は少し鬱陶しそうな顔をする。けれど自分を見つめてくる瞳がキラキラと輝き出して、口を開くまで追及されることが目に見えてわかった。

「……同い年の、明るくて笑顔の可愛い子、と」

「え? ……と? なにそれ、二人いるの? 二股?」

「違うよ」

「どういうこと?」

「その子はいま好きだなぁって思ってる子で、もう一人は俺のこと好きなのかな? って思う人」

「えー、それならいま好きな子一択でいいじゃない」

「……だけど、彼氏いるし、腹立つくらい相思相愛だし」

 テンションが上がってノリノリだった瑠衣は光喜の小さな声に目を瞬かせた。視線を下に向けていてもまっすぐにこちらを見ているのがわかる。けれど目を合わせる気にはならず、光喜は黙って口を引き結んだ。

「ふぅん、ムカつくくらいラブラブなのに、諦められないでいるんだ。でも無理なのはわかってる。だからもう一人の相手のことで迷ってる、ってことね」

「いちいち全部言わないでよ」

 わかりきっていることをやけに真面目な声で語られると気持ちが尖ってくる。睨み付けるように光喜が視線を向ければ、瑠衣は少し困ったように息をついた。そして眞子と二人で顔を見合わせる。

「みっちゃんは、もう一人の方のことはなんとも思っていないの?」

「……嫌いじゃないよ。でもわかんない。だって考えてもドキドキとかしないし、俺より大人なのに子供みたいだし、いつもあたふたしててなんかちょっと頼りないし」

「光喜、ちょっと待ちな。……その人、もしかして男の人?」

 ふいに言葉を遮った瑠衣の一言に光喜の表情が固まる。普段から自分を誤魔化すことに長けてはいるけれど、家族の前では別だ。急速に不安がこみ上げてきて悠人を抱きしめる手が震える。

「え? あら、年上のお姉さんじゃないの?」

「だって光喜の言い方、おかしいでしょ。年上の女の人がちょっと子供みたいでも、頼りなくても、女の子らしい可愛い一面って感じるところじゃない?」

「確かに、言われてみるとそうねぇ。でもみっちゃん、いままで男の人となんか付き合ったことないわよね? いつも女の子だったわよね?」

 まっすぐで純粋な瞳にのぞき込まれて、返す言葉が見つからずとっさに光喜は目をそらしてしまった。なにも間違ったことを言われていないのに、なぜかひどく後ろめたさを感じる。心拍数が上がって、できることならいますぐ逃げ出したいと思った。

「その人にそそのかされちゃったの? 好きじゃないならいいじゃない。みっちゃんならすぐに可愛い彼女が見つかるわよ」

「お母さん! やめなよ! そういう言い方、偏見だよ!」

「だって変じゃない。みっちゃんは男の子よ。女の子と付き合うのが普通じゃない」

「もう! お母さんのその世間知らずで自分の世界しか見ないところ、ほんと嫌い!」

 リビングに響き渡った瑠衣の声に、いままで大人しかった悠人が突然火を付けたように泣き出した。