My Dear Bear~はじめての恋をしました

22.通じ合うことのできない価値観

 これまでも付き合ってきた子たちは気軽に親や姉に紹介してきた。光喜が言わなくとも家に帰れば当然のようにその話題になる。一年単位で入れ替わる彼女に瑠衣は長続きしないわね、と言うけれど特別呆れているわけでもなかった。 両親は若いうちは色々な出逢…

21.初めて向き合う自分の心

 世の中で当たり前とされているのは男女のカップルだ。けれど勝利たちのように同性同士のカップルもいる。だが、勝利曰く自分たちのような人間はまだ肩身が狭い、のだという。だから大っぴらに手を繋ぐことも抱きしめることも咎められる。しかし光喜にはその…

20.小さな重みに浮かんだ迷い

 大学進学と共に家を離れ、光喜が実家に帰るのは年に二、三回程度。自立した息子の心配はあまりしていないようで、親からの電話も月に一回あるかないか。だからと言って家族仲が冷めているわけでもなく、なにかイベントごとがあればプレゼントを贈り合う。 …

19.入り組んだ感情の先は

 おめでとう――そんな言葉はいままで何度も口にしたことがある。けれどあの瞬間、なぜか光喜は胸がひどくドキドキとした。それはこれまで感じたことのない高鳴りだった。照れくさかった、それもある。しかしそれだけではない感情もあった。 じわじわと染み…

18.芽生えはじめた気持ち

 軽い足取りで階段を上ってぼんやりとした明るさの外廊下を抜ければ、もう見飽きるくらい見ている白い扉の前にたどり着く。この扉の向こうへ行くと、いつも貼り付けっぱなしの仮面が剥がれ落ちる。だから鍵を回して一歩内側に入れば、力尽きたように廊下に転…

17.欠けた心に注がれる優しさ

 甘い恋――小津の気持ちに寄り添えたなら、いまの苦しさはなくなるだろうか。しかしその甘さに惹かれるけれど、彼に対する感情は勝利への気持ちを覆すほどの強さはない。確かに隣にいると優しい気持ちになれた。寄りかかれば心穏やかに過ごせそうだ。しかし…

16.それはチェリーの味

 これまでの人生、恋や愛につまずいたことがない。いいなと思った子はすぐに傍へ来てくれて、なにも言わなくても好意を寄せてくれる子が集まった。中にはひどく厄介な相手もいたが、人の感情に敏感な光喜はそれを上手く退ける術を持っている。 恋が終わりを…

15.決して理想には届かない

 それはなんの変哲もない写真だ。思い出の一枚と言っていい。そこに写っているのはいつもと変わらぬ穏やか笑みをした小津と、儚げな印象を受ける見知らぬ青年。それだけでも落ち込むくらいなのだから見なければいいのに、指先が勝手に小冊子を開いていく。 …

14.心の中で膨らんでいく気持ち

 頬に触れただけで茹で上げられたように首まで赤く染まるその反応は、まるで思春期の少年のようだ。けれどなぜかその青さが小津らしいと光喜は感じた。見たままの穏やかさと誠実さはひたすらまっすぐで、嘘や誤魔化しがない。 いつも作り笑いを浮かべる光喜…

13.胸に灯った優しい想い

 勢いよく小津が二階へ上がって十分ほど。階段の先から声をかけられた。その声を聞いて光喜はゆっくりと階段を上っていく。ひどく緊張しているような顔で見つめられて、それがおかしくてまた笑みがこぼれてしまう。「おーい、光喜。足元に気をつけて上れよ。…