My Dear Bear~はじめての恋をしました

09.運命の人

 先陣を切って歩く二頭は尻尾をゆらゆら揺らしながら歩いている。たまに振り返って視線が合うと満足したようにまた前を向く。大型犬は力が強いので散歩に苦労する飼い主は少なくない。 けれど小津家では一定の時期になると一緒に訓練学校へ通う。もう何年も…

08.綺麗なその心

 しばらく抱きしめたままでいると、もぞりと腕の中で身じろがれる。ゆるりと腕を解いて顔をのぞき込めば、頬を染めながら少し目を伏せた。そのいじらしい仕草に思わず近づきそうになって片手で押し止められる。「小津さん、みんなの前だよ。……それはちょっ…

07.まっすぐな想い

 彼に辛い思いをさせた時に、すぐに追いかけていけなかった自分のことがひどく情けなく思えた。とっさの反応ができなくて、いつも後悔ばかりする。選ぶべき選択を間違えてしまう。 それを秤にかけた時に、どちらが重いかなんてことは考えなくてもわかるのに…

06.思いがけない再会

 小さな弟分に兄貴分たちは一歩距離を置いている。飛びかかることもなく窓際近くで各々くつろぎ出す。希美に勧められて隣に腰かけた光喜は小さな福丸にデレデレだ。けれど子犬をこうして目の前にするのは初めてなようで、そわそわするものの手を出せないでい…

05.お待ちかねのご対面

 リビングに賑やかな笑い声が響く。その声は主に希美と敦子で、その勢いには少しばかり驚かされる。どこでどうやって知り合ったのか、いつから付き合ってるのか、などと言うことを根掘り葉掘り聞かれてさすがに苦笑いしか浮かばないが、女性陣の興味は尽きな…

04.君の優しさ

 二人のマイペースさに不安を覚えていたが予感は的中した。光喜のことを知っていたのでさらに面倒な展開になったとも言える。兄、息子の恋人、と言う前に芸能人に出会えたことの感動が大きいようだ。 しかし彼はもうその仕事から卒業しているから、騒ぎ立て…

03.緊張の初めまして

 新幹線で二時間ほど。電車を乗り継ぎ久しぶり降り立った小さな駅は、それほど昔と変わらない。年に一度帰るか帰らないか、そんな頻度だが迷いようがないほどだ。隣でキョロキョロと物珍しげに視線をさ迷わせている顔に小さく笑みを浮かべながら、二十分ほど…

02.初めての旅行

 厚切りのトーストを二枚。ポテトサラダとツナを載せたグリーンサラダに卵を三つ使った大きなオムレツ。そして肉汁が溢れるウィンナーを四本に淹れ立てのコーヒー。食卓についた二人は両手を合わせて声を揃えると温かいトーストにかぶりつく。 バターがたっ…

01.二人の日常

 人の出逢いの中には運命的な出会いというものがあるよ。そんな話を聞かせてくれたのは誰だっただろう。それは随分と遠い記憶。幼い頃の記憶だ。その時は言っている意味がさっぱりわからなかった。首を傾げるとその人は目を細めて笑い、大丈夫と頭を撫でてく…

83.この恋を抱きしめて

 眠っているあいだの光喜は夢うつつで、楽しげな笑い声や話し声を聞いていた。勝利の笑い声、そういえばあの頃は辛かったなと思い出しながら口元に笑みを浮かべる。そして小津に初めて会った時、いま思えばなぜ視線が吸い寄せられたのだろうと思う。 人より…